vol.117

「問題に基づく学習」方略を活かす
一般社団法人日本図書教材協会顧問
筑波大学・上越教育大学名誉教授
辰野千壽

 今日、特に思考力を高める教育が重視され、問題解決学習が用いられているが、近年、その方法の一つとして「問題に基づく学習」方略が提唱されている(オ・ドンネルら 2007)。

 この方略は、いくつかの正答をもつ複雑で興味のある問題を与え、自発的・協力的に学習させることにより、@内発的動機づけ、A柔軟な知識、B問題解決スキル、C自己指導学習スキル、D効果的な協力スキルを育成しようとする。

 この学習では、成功するまで、次のサイクルを繰り返す。@問題の内容の理解、A関連のある事実の見分け、B仮説の案出、C知識不足の認識、D新しい知識の適用、E新しい考え方の抽出、Fそれについての自己評価。

 この柔軟な思考を育成するのに適する問題は、次の特徴をもつ。@複雑で体系化されていないで自由に解答するもの、A生徒が興味をもち内発的に動機づけられるもの、Bいろいろな領域からの知識を必要とするもの、C複雑で興味があり、討論とアイディアの考案を促進し、知識の構成を高めるもの。

 このような問題の解決で新しい情報を探す必要があるときには、生徒は自己指導学習に従事し、自分自身の状態を評価することを学習する。

 教師は、生徒がこのような学習スキルを自ら習得するように指導するには、認知的徒弟制の方法が役立つといわれる。この方法では、次の順序を踏んで指導する。@教師が生徒に熟達したスキルの手本を示す(モデリング)。A教師は生徒にその技能を実際に使用させ、手取り足取り教える(コーチング)。B生徒にひとりで学習させ、適宜手掛かりを与える(足場作り)。C学習が進むにつれて手掛かりを徐々に取り除き、ひとりで実行させる(足場の撤去)。この考え方は相互学習、協力的学習でも活かされる。

 なお、この「問題に基づく学習」方略の考え方は、思考力を高める教材の作成にも役立つであろう。

〜図書教材新報vol.117(平成27年1月発行)巻頭言より〜