vol.129

学習でフロー体験を
一般社団法人日本図書教材協会顧問
筑波大学・上越教育大学名誉教授
辰野 千壽

 教育心理学のテキストでは、ときにフロー(flow.流れ)という言葉が用いられる(チクセントミハイ 1990)。これは、意識が流れている、あるいは意識が流れに乗っているような状態を表している。学習では、生徒が現在の学習活動に夢中になり、注意を集中している状態を指している。この状態は、現在の活動に夢中になり、食事を忘れたり、どれだけ時間が過ぎたかに気づかない状態にたとえられる。この状態では、学習活動が楽しく、円滑に、しかも効果的に行われ、学力が向上するので学習指導ではフロー体験として重視されている。

 このフロー体験は、課題のレベル(困難度)と学習者の学習スキルのレベルの釣り合いが保たれているときに起こる。課題のレベルが学習スキルを越えるときには、課題の要求に押され、心配、不安や悩みを感じ、学習スキルが課題のレベルを越えるときには、飽きや退屈を生じ、フロー体験は起こらない。

 フロー理論の意味するところは、課題の困難度が生徒のスキルと釣り合うにつれて、どんな活動も楽しくなるということである(オ・ドンネル 2007)。レポートを書くこと、問題を討論すること、ワークシートを完成すること、明日のテストのために教材を復習することなどにおいても、課題の困難度と学習スキルの釣り合いを考えることにより、フローとそれに伴う学習の楽しさを経験する機会を与えるというのである。実際、生徒はテレビを見て楽しむよりも適度に困難な宿題を楽しむことが指摘されている。確かに、宿題や学校の作業は、無為のときよりも挑戦とフィードバックの機会を与え、フローの機会をより多く与える。フローを経験した生徒は、興味を育て、能力を伸長させるような課題や活動に挑戦することによって充足感を抱くようになる。したがって、学習指導では、生徒の能力・適性を考えて学習課題を与え、フロー体験を経験させることが大事である。

〜図書教材新報vol.129(平成28年1月発行)巻頭言より〜