vol.149

将棋・卓球・歎異抄と教材
一般社団法人日本図書教材協会副会長
川野辺 敏

   脈絡のないような表題で恐縮だが、教材の観点から考えさせられている。将棋は言うまでもなく、少年棋士藤井君のことであり、卓球は張本君である。二人とも中学生でありながら、前者は将棋のプロ棋士を次々と破り、後者も同じように日本の卓球のエース級の大先輩たちを破り日本代表の水準に達している。なぜ、二人はこれほどの才能を早くから発揮できたのかを考えてみると、二種類の教材観が浮かび上がってくる。一つは人工知能あるいはコンピュータソフトなどのIT機器関連の教材活用であり、二つは、伝統的に蓄積された基礎・基本的形態を継承・改善した教材活用である。藤井君は、おそらく先輩棋士たちが経験したこともない学習教材を活用しながら、新しい自己独自の境地に達しつつあるようであり、張本君は幼いうちから卓球の基礎を学び、自己に適した型を見出したように思われる。今後の教材作成・研究の在り方を考えると、二つの側面があり、新しい観点と、伝統的観点の両者を並行して今後の教材作成を行うべきだろうという、当たり前の結論に達するのである。

 そんな折、『梅原猛の『歎異抄』入門』(PHP出版)を読みながら、仏教の話ではあるが、教材の原則が読み取れるような気がした。一つは、当然のことではあるが「原点に返れ」ということ、二つは「悪人正機=落ちこぼれそうな子どもをこそ大切にせよ」の原則である。

 小・中学校には多様な子どもが学んでいる(歎異抄でいう、「善人」も「悪人」も)。学習指導要領に示す学業を身につけられずに苦しんでいる子どもの指導を優先しておけば、優れた子どもは自力で前進するだろう、という発想である。この主張を重く受け止めたい。

〜図書教材新報vol.149(平成29年9月発行)巻頭言より〜