vol.170

豪州の「カリキュラム戦争」
一般社団法人日本図書教材協会監事
広島大学名誉教授
二宮 皓

2008年にメルボルン大学に拠点をおく大規模プロジェクト(ATC21S(21世紀型スキルの評価と教授))がスタートし、2012年にその成果『21世紀型スキル』(@思考の方法、A仕事の方法、B仕事のツール、C社会生活の4分野におけるスキル)が公表され、世界に大きなインパクトを与えた(訳書『21世紀型スキル』(北大路書房)2014年)。

くしくも2008年は、豪州で「カリキュラム戦争」と呼称されるカリキュラム改革の火ぶたが切って落とされた年であり、2008年「オーストラリアの若者のための教育目標に関するメルボルン宣言」、2014年「オーストラリア・カリキュラム」(世界に影響を与えた「汎用的資質・能力論」)が公表された。2018年3月には豪州政府によってThrough Growth to Achievement(『成長から業績(学力)まで』)報告書(ゴンスキー報告2・0)が公表された。失敗すれば「30年戦争」となると警告している。

基礎的基盤的知識技能(たとえば歴史や科学)と汎用的資質・能力の育成の場と方法をめぐる「ゼロ=サム的」競争が火種となっている。ゴンスキー報告2・0は豪州の学校教育をレビューし、この問題の解決策を探るもので、双方の力を育成するために「学習の進化」を提唱し、従来通りの教科書・カリキュラムではなく、新たな学びを促進する教科書・カリキュラム開発を提唱している。簡単にまとめれば、批判的・創造的思考力などの汎用的資質・能力は各教科カリキュラム(教科書)に「学習領域(Learning Areas)」を設けることで教授・育成できるとする考え方で、伝統的な教科学習と新「学習領域」学習を統合する授業(学び)を想定しているといえる。教科書・教材のあり方も模索されることとなる。

ちなみにわが国は、「総合的な探求の時間」改革、日本史探求・世界史探求の新科目の設置など、「探求」的な学びにその解決策を見出そうとしていると想定することもできるが、それで終戦を迎えることができるだろうか。

〜図書教材新報vol.170(令和元年6月発行)巻頭言より〜