vol.192

教材について語る言葉―授業レキシコンの変容
一般社団法人日本図書教材協会理事
筑波大学人間系教授
清水 美憲

授業という複雑な社会的・文化的営みを研究するために、国際比較の手法が採られることがある。そのような国際比較研究の中で、教師が授業について語る際に用いる語彙(「レキシコン(lexicon)」)の国や地域による違いが注目され、この授業に関する語彙の研究プロジェクトが進行中である。

「レキシコン」は、我々が用いる心的な(「頭の中の」)辞書や語彙的知識に関する研究で用いられる用語である。また、例えば、シェイクスピアの作品に登場する単語やフレーズ、構文等を全て網羅した辞典「シェイクスピア・レキシコン」もよく知られている。

我々の社会的・文化的活動への参加やその経験の反省は、実は使用可能な言語によって媒介・限定されて形作られているという立場に立つと、言語の規範的な役割が注目される。いわば、言葉があって初めて、それに対応する行動がとれるようになるのである。

授業に関する語彙群も、教室内の教授と学習を語るために用いられる一方、それが規範的な役割を持つことが注目される。かつて「机間巡視」と呼ばれた授業中の教師の行動は、1980年代からその呼称が「机間指導」に変わり、現在では「机間支援」とも呼ばれるようになった。「指導」ではなく「支援」である、といった学習者への眼差しが窺われるこの変化は、是非はともかく教師の立ち位置を一歩「下げる」効果を生む。

このような語彙の変容の背後には、教育の理念や思潮の変化、教育政策の変化や学習指導要領の改訂があり、教師集団の共有する知識も変容するものとみられる。

授業研究の中で重要な位置を占める授業レキシコンの一つ「教材研究」も同様である。「教材研究」の意味は、教科目標、教科内容、教具・学習具や学習環境等との関係で広がりをもって解釈されるが、資質・能力ベースの教育課程の進行や、デジタル教科書やICT活用の教育改革の中でどのように変容していくか、また、新しいレキシコンが派生するか等が注目される。

〜図書教材新報vol.192(令和3年4月発行)巻頭言より〜