2025年3月1日

都道府県・市町村・特別区教育委員会
教 育 長 様
学校教育担当課長 様

教 材 等 著 作 権 保 護 委 員 会
委員長・弁護士  前田 哲男


ワーク、ドリル、テストなど学校用教材の著作権に関する学校への御指導のお願い

拝啓 学校教育の充実向上に対する日頃の御尽力に心より敬意を表させていただきます。
 さて、教材出版社が制作・発行しておりますワーク、ドリル、テストなどの図書教材やデジタル教材等の学校用教材は、学校教育法及び学校管理規則などにより使用することが認められている副教材です。このような学校用教材に関し、教材出版社から販売代理店を通して小・中学校にお届けした教材の見本や採用後の教材が、先生方の手でそのまま複写されたり、パソコンやサーバにデータとして取り込まれたりしていわゆる“自作教材”となり、児童・生徒に利用されるという例が、残念ながら後を絶ちません。これによって出版社・代理店ともに著しい経済的な打撃を受けており、その対策に頭を痛めております。
 また、1人1台端末の整備に伴い、ICT環境を活用した学びの充実が期待されるところですが、端末の活用により、先生だけでなく、児童・生徒も容易に教材の撮影や画像データの配信が行えることから、学校用教材の著作権侵害の防止にはより一層の配慮が必要となっております。
 そこで、著作権法の遵守について、以下のとおり所管の小・中学校及び先生方への御指導を賜り、年度はじめの職員会議の席などで周知していただきたく、本書面を差し上げる次第です。よろしくお願い申し上げます。

1.著作権法では、学校用教材の無断複製・公衆送信は、教育目的であっても認められていません
 著作権法第35条(学校その他の教育機関における複製等)第1項は、学校の先生方が、公表された著作物を「授業の過程における利用に供すること」を目的として複製・公衆送信することを必要の限度で認めております。しかし、同項には、「当該著作物の種類及び用途…に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」との「ただし書」があります。そのため、教材出版社の「商品」としての学校用教材をそのまま、あるいは加工して無断で複製・公衆送信して児童・生徒に利用させる行為は、まさにこの「ただし書」に該当し、教材出版社の利益を不当に害するものとして禁止されています。学校用教材については採用の有無にかかわらず、原則として無断複製・公衆送信は認められていません。(著作物の教育利用に関する関係者フォーラム「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」12ページ参照)
 また、文部科学省の事務連絡文書「1人1台端末により撮影した教材の画像データを活用した学びについて」(令和4年11月24日付)においては、「ドリルやワークブックなど児童生徒等が一人一点ずつ購入することを想定して販売されている教材を、その購入等の代替となるような態様でコピー・配信すること…は著作権者等の利益を不当に害するおそれがあ」る、との記載もあります。

2.学校用教材の見本は、適切な御採用をお願いするためのものです
 小・中学校で最も多く見られる違法複製は、教材出版社が無償で提供する見本(又は少数の採用分)を児童・生徒数分そのまま複製し、「授業の過程における利用に供する」ことです。特に問題視しておりますのは、提供された見本がそのまま複製・使用され、本来採用されたはずの「商品」としての教材が採用されなくなることです。
 教材出版社が小・中学校に現物見本をお届けしているのは、学校管理規則などの定めに従って、より適切な教材を採用していただくための教育的な配慮によるものです。その見本を複写複製して利用することは、違法である以前に、教育に携わる者として許されるべきではないと考えております。

3.学校用教材は、「授業目的公衆送信補償金制度」の対象には当たらず、無断公衆送信は認められておりません
 学校用教材の公衆送信についても、1.のとおり教材出版社の利益を不当に害するものは禁止されています。児童・生徒数分の教材を採用している場合でも、撮影・配信した教材の画像データが蓄積されていくこと等により将来における著作物等の潜在的販路を阻害するなど、教材出版社の利益を不当に害する可能性が高い場合には、原則として、著作権法第35条第2項における「補償金」の範囲で利用できるケースには当たりません。すなわち、「補償金」を支払っても無許諾で学校用教材を公衆送信できるものではありません。(著作物の教育利用に関する関係者フォーラム「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」9ページ参照)

4.教材の複製・公衆送信に際しては、教材出版社にお問い合わせください
 学校用教材の著作権について、原則となる考え方は先述のとおりですが、ここ最近では、複製や公衆送信の形態も多様になってきており、学校の状況・事情等に応じて、著作権者である教材出版社等の判断により、柔軟な対応ができる場合もありますので、教材出版社等に事前に確認することをお勧めいたします。

5.著作権法では、著作権侵害行為に対する罰則は「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はその併科」とされております
 著作権法の罰則規定は重く、先述のような著作権侵害行為があった場合は、著作権法違反として厳しい刑罰を科せられることがあります。また、著作権者が被る損害が著しい場合には、教材出版社のみならず、教科書掲載作品の著者などからも損害賠償請求の訴訟が提起されることにもなりかねません。

6.御指導方のお願い
 各位におかれましては、教育の場で刑事・民事の著作権紛争が発生するという不祥事を未然に防止するためにも、各先生方に対し、著作権法を遵守し違法な複製や公衆送信を根絶することについての御指導をいただきたく、お願い申し上げる次第です。
 なお、学校用教材と著作権については、一般社団法人日本図書教材協会のホームページ内に解説とFAQが掲載されておりますので、そちらも御参照ください。

敬具

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