一般社団法人日本図書教材協会会長
辻󠄀村 哲夫
AI技術の進化のスピードは留まるところを知らず、世界の情報化の勢いは年々加速している。こうした世界の動きもあろう、国は学校教育でのICTの活用促進に力を入れている。
2020年代を通して実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿を示した中教審答申(令和3年)も、令和9年度まで5年間の教育振興基本計画も同様の考え方に立っている。GIGAスクール構想も2期目に入った。
しかし、昨今情報化の進展がもたらす負の側面が顕著になってきた。機密の窃取、偽情報による人権侵害・金銭詐欺等悪質な事件が後を絶たない。児童生徒が巻き込まれる事例も少なくない。過度の情報機器依存による人間関係の希薄化、生活体験・運動の不足など児童生徒の心身の健康への悪影響も指摘される。
今、これまでの情報教育を振り返りその在り方を見直す時期が来たように思われる。
情報教育が目指すのは「情報活用の実践力」
「情報の科学的理解」そして「情報社会に参画する態度」の育成である。
我が国の小・中学校教育に情報機器が導入され始めた頃の平成8年の中教審答申は、情報教育を進めるに当たっては、情報化の進展がもたらす「影の部分」の影響の重大性・その対策の必要性を強く指摘していた。
しかし、今日まで教育は前二者に力点が置かれ、「情報教育に参画する態度」の育成、情報社会で被害者にも加害者にもならない生き方、将来の情報社会を生きる社会人に不可欠な情報モラルに関する教育は十分になされてこなかったように思われる。
緊急対策として、今すぐにも学校と保護者に児童生徒を被害者にも加害者にもさせない指導を求めたい。同時に、近く始まる次期学習指導要領の改訂審議では、情報モラルに関する教育の在り方について将来の情報化の進展を見通した徹底した審議を望んでおきたい。
~図書教材新報vol.229(令和6年5月発行)巻頭言より~