vol.231主体的な学び手を育てる評価教材

第36・37期学校教材調査会国語科専門委員
梅澤 実

 学校教材調査会に臨み、頭をよぎった筆者の小学校時代の思い出を語りたい。半世紀以上も前の4年生の国語のテストのことである。
 表面(おもてめん)を終わった者は、裏面(うらめん)を読んでよいことになっていた。表面は正解を求めるテストだが、裏面は、物語文単元では教科書教材ではない物語が紹介されていたり、説明文単元では教科書の説明文の発展的内容が掲載されていた。この裏面が早く読みたくて、表面の問題は問題文もほとんど読まずに解いた。私にとって、表面は授業で終えた過去の学習であり、裏面は新しい学びをもたらす学習であった。裏面では主体的な学び手になれた。しかし、表面のテスト結果の点数は、次のテストへの学びへの意欲へとはつながらず、主体的な学びを喚起するものとはならなかったということである。
 表面のテストが、子どもたちに「新しい学び」をもたらすものとなるには、テストの設問が、読みを深める上で意味ある問い方であると思えるものとすることである。設問自体はいずれ必要なくなり、学習者自らが発する問いかけとなる。それは、設問に内包された文章を読む上での「見方・考え方」が、血肉化されることである。そのためには、読みの過程での自己の文章予測の修正と自己の既有知識の再構成がいかに行われたかを学習できる設問が必要である。そうした設問による学習は、新たに出会う教材の読みを活性化させる。活性化された読みとは、筆者が対象にどのように関わろうとしたかを「なぜ、筆者はそのように考え、表現したのか」と筆者と対話することによって学ぼうとする主体的な学び手の「読み」といえよう。
 評価教材は各出版社の不断の努力によって様々な改善がなされてきた。しかし、評価教材を受け身ではなく、主体的な学びへと変えるためには、これまで以上に子どもたちが求める「新しい学び」を大切にし、表面と裏面とを関連づけられるようにすることであろう。

~図書教材新報vol.231(令和6年7月発行)巻頭言より~

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