第37期学校教材調査会社会科専門委員
澁澤 文隆
生成AIの出現、普及と汎用性が夏休みの宿題事情を大きく揺さぶり、宿題の定番であった「読書感想文」や「自由研究」に親子で取り組む夏の風物詩が失われる事態となっている。こうした動向を踏まえ、生成AIが普及して初めての夏休みを迎える2023年6月に、東京都教育委員会は全都立校に向けて「宿題における生成AI使用への注意」を通達した。また、文科省も同年7月に初等中等教育段階における生成AIの利用に関するガイドラインを暫定的に策定し公表した。これらは生成AI普及途上の教育的課題を踏まえると時宜を得たものであり、AI時代の見通しや対策の在り方等を検討・実践していく上での指針となることから、現職教員は熟読し理解することが必須と考える。
一方で、これらの通達、公表された文章を読みつつ実情を直視すると、「もはや間に合わない!」眼前の児童・生徒は、いわば巣立ちのためのトレーニングを欠いたままいきなり野に放たれた状況にあり、生成AIを利用するに当たって身につけておくべき能力・態度を育む基礎・基本の学習が不十分なまま実践の場に浸っており、利用・活用のみが先行し独り歩きしている状態にあるといえよう。
このため、安易で過度に依存した生成AI利用が目立ち、学校は、児童・生徒の思考力、創造性等の学力の伸び悩みの問題や、著作権侵害等の情報モラルの問題、利用料金をめぐる保護者の経済的負担の問題など、懸念されていたデメリットの面が顕著となり、それらの諸問題に取り組むことになると予想される。
それでも生成AIといった便利なものの普及・拡大は止められないし、過度な依存、安易な利用が横行することになるだろう。また、それでも児童・生徒の成長は止められないから、AI時代に対応した適切な対策が必須となるはずである。文科省などは、早急に、具体的な是正策等の策定、公表が期待されているといえよう。
~図書教材新報vol.232(令和6年8月発行)巻頭言より~