vol.248タブレットと紙が共存する教室

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授
第38期学校教材調査会英語科専門委員
工藤 洋路

 最近、ある小学校の授業を見学した際、複数の児童がタブレット端末を机から床に落としてしまう場面に遭遇した。児童の不注意と言ってしまえばそれまでだが、その後、学校の先生と話をするなかで、机そのものが小さいことが大きな原因であることが分かった。現在、1人1台端末の環境はほぼ実現しているものの、学習のすべてをタブレット上で行っているわけではない。紙の教科書やノート、先生が作成したプリント類など、机の上にはさまざまなものが並ぶ。デジタルと紙が併用されている現在の教育環境では、これまで以上に多様な教材やツールを用いて学習が行われており、その結果、それらを同時に広げるだけのスペースが確保できないという問題が生じている。なかには大きめの机に買い替えた学校もあると聞くが、購入予算の制約に加え、教室の広さなどの事情を考えると、容易に大型の机を導入できる学校は少ないだろう。
 文部科学省は2030年度にデジタル教科書を正式な教科書として位置付ける方針を示しており、その先にはタブレット端末のみで学習する時代が到来する可能性もある。そうなれば従来型の机の存在意義が問われることになるかもしれない。しかし、そこに至るまでの一定期間は、紙とデジタルの併用が続くと考えられる。たとえば英語学習の場面で単語を覚える場合、「紙に手書きで10回書く」「タブレットで10回タイピングする」「紙に5回書き、タブレットで5回タイピングする」といったように、練習回数がいずれも10回であっても、その形態が異なれば、どれがもっとも効果的かを検証していく必要があるだろう。さらに、個別最適化を念頭に置くならば、児童生徒1人ひとりにとって最適な形態は異なる可能性が高い。そう考えると、今後は机などの教室環境の在り方に目を向けると同時に、多様な学習形態を児童生徒に体験させることが求められていると言える。

~図書教材新報vol.248(令和7年12月発行)巻頭言より~

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