vol.206 「宗教に関する一般的な教養」再考

一般社団法人日本図書教材協会副会長
星槎大学特任教授
新井 郁男

平成18年の教育基本法改正で宗教教育に関して追加された「宗教に関する一般的な教養」について本新報Vol・191で考察したが、具体的にどのようなことを学校で教えるべきかについての論はみられなかったので、いろいろ思いを巡らせてきた。今回は思いついた一案について述べることにする。

小学校社会科では、学習指導要領で取り上げるべき人物としてスペインから来日したザビエルがあげられている。教科書では宣教師であることしか書かれていないが、その背景にまでは触れられていない。宣教師は布教活動や慈善活動を行っていたが、当時は政教分離していない時代であり、その背景にはスペインの政治的意図があったのである。

ポルトガルとスペインは、1494年のトルデシリャス条約と1529年のサラゴサ条約によって世界を分割支配することを決めていた。植民地獲得競争の先鞭である。こうした政治的意図は土佐の浦戸に漂着したスペインの難船の乗組員が漏らしたことで明らかになり、海外貿易を重視しキリシタン入信を認めていた豊臣秀吉は禁圧へと政策転換し、宣教師6名と日本人20名を処刑した。

一方、1543年に、ポルトガル人が種子島を訪れた直後から大勢の日本人が、ポルトガル商人によって奴隷として売られていた。秀吉はバテレン追放令を発布して、日本人を奴隷として売買することを禁じた。

以上のようなキリスト教宣教師を世界制覇の手段とする政治的意図などを知った日本は両国との国交を断絶することになる。この方策は徳川幕府に引き継がれていく。その結果、日本が植民地化されず独立を維持することが出来たのである。

以上が、「宗教に関する一般的な教養」の教育試案である。最近、さまざまな観点から地政学が注目されているが、宗教についても地政学的教材の開発が重要ではないだろうか。

~図書教材新報vol.206(令和4年6月発行)巻頭言より~

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