一般社団法人日本図書教材協会監事
広島大学名誉教授
二宮 皓
7月下旬、教科書研究センターで、教科書研究の世界的拠点「ライプニッツ教育メディア研究所/ゲオルク・エッカート研究所」(1975年創設)のE・フックス所長と交流する機会があり、同研究所の最近の動向を伺う機会があった。昨今の中心的研究テーマは、かつてのドイツ・ポーランド歴史教科書研究から「国際教科書研究」や「デジタル教育メディア」研究にシフトしているという。最も興味を引いたのが「ポストデジタル教育」研究であった。
デジタルテクノロジーはもはや必ずしも「革新的」なものではなく、日常生活の背景をなす要素になり、誰もがデジタル技術を駆使している時代(ポストデジタル時代)が到来しつつある。こうした時代において、「デジタルの効果・影響や社会文化的浸透」を批判的反省的に考察することがますます重要となる。こうした認識から同研究所では新たに「ポストデジタル時代の教育」研究に着手しようとしているという(http://www.gei.de/forschung/postdigitalebildung.html)。
すでに企業の世界ではここ1~2年の間、ポストデジタル時代の企業やビジネスの在り方を問う動きがあるようだ。そこではDXが進み、デジタルが日常になり、人々の生活や仕事に深く影響するデジタルテクノロジーを注意深く見るなかで企業では何が最も重要になるかを探っている(『ポストデジタル時代の到来』(2019年、アクセンチュア))。
このように想定すると、ポストデジタル時代においては、デジタルテクノロジーが衰退するのではなく、ますます日常化するデジタル環境(デジタル教科書・教材、AIによる教授学習過程の制御など)における学校教育への影響を研究し、学校教育の在り方を問う新しい研究視座が求められるのかもしれない。
~図書教材新報vol.209(令和4年9月発行)巻頭言より~