一般社団法人日本図書教材協会前副会長
国立教育政策研究所名誉所員
川野辺 敏
世の中は急変し、これまで経験したことのない現象に戸惑っている人も多いに違いない。地球の温暖化・コロナの蔓延・ロシアのウクライナ侵略などが連日のように報道され、デジタルの普及などが加わり、伝統的な働き方や生き方など、生活全般の在り方・革新が求められている。
学校という建造物・教師の役割や指導の方法といった、教育の本質や伝統まで、問われている時代になってさえ来ているともいえよう。長い間、教育に関わりを持って生きてきた私など高齢者は、おろおろしながら、次代の若者の教育の在り方を想像するばかりである。
そんな時『夢はつながる できることは必ずある-ALSに勝つ! -』(谷川彰英・東京書籍)という本が送られてきた。著者はALSという治療の方法のない難病に侵され、次第に重症化する病床の下で、「絶望さえしなければ必ず生きる道・夢はつながる」という信念で、子どもたちに死を前提にした生きる姿を身をもって示した生々しい手記である。
次の世代の現在の子どもたちは、変化・多様化のなかで、どんな知識や技能が求められるか、わかりにくい状況である。だが、どのような変化が起ろうと、歴史・経験は大切な財産である。過去の経験を呼び起こし、あらたに生ずる変化に対応する教育に何らかの支援をする努力をしなければなるまい。
教育の改善に日夜努力してこられた皆さんには、谷川さんの叫び声が日常の仕事に響いているに違いない。教材のどのような分野・領域であっても、子どもが「前向き」になって「とりくむ心情」を育てることに、改めて力を入れてほしいと願うばかりである。
~図書教材新報vol.211(令和4年11月発行)巻頭言より~