vol.227 未来の教育とエージェンシー

一般社団法人日本図書教材協会前会長
菱村 幸彦

 教育界では、ときに「アクティブラーニング」や「カリキュラムマネジメント」など外来語が流行する。最近は「カリキュラムオーバーロード」「ウエルビーイング」「エージェンシー」という言葉をよく目にする。この3語はいずれもOECDに由来している。

 周知のように、OECDは経済協力開発機構で、本来、加盟国間の経済について分析・検討を行う国際機関であるが、教育の分野でも様々な事業を行っている。直近の例でいえば、日本の好成績がニュースとなったPISAは、OECDが3年ごとに実施する国際学力調査である。

 OECDは、2019年に報告書「教育とスキルの未来2030プロジェクト」を出した。報告書は、未来の教育の枠組みとして、ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)を提示し、「ウエルビーイング」と「エージェンシー」というキーワードを掲げた(*)。ウエルビーイングは、すでに第4期教育基本計画に取り込まれているから、改めて説明する必要はないだろう。

 では、未来の教育に求められるエージェンシーとは何か。OECD報告書は、エージェンシーについて「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」と定義している。予測が困難な状況に適切に対応するためには、目標の設定や目標実現に向けた計画を立案し、さらには自らの能力や機会を評価し、振り返るなどの能力が欠かせない。未来の教育では、創造に向けた変革をもたらす能力の育成こそが重要というわけだ。

 現行学習指導要領は、自ら課題を発見し、主体的に判断して行動し、よりよく問題解決する資質・能力を身につけることを重視している。これはエージェンシーの考え方と同旨である。学習指導要領の次期改訂ではこの方向性がさらに推進されることとなろう。

*文科省からOECDに出向していた白井俊氏の著した『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)に詳しい。

~図書教材新報vol.227(令和6年3月発行)巻頭言より~

TOP