vol.230教材の宝庫・江戸城を歩く

一般社団法人全国図書教材協議会会長
細谷 美明

 先日、教職大学院に勤務していた頃の教え子たちにせがまれ、東京・千代田区にある皇居東御苑でのフィールド・ワーク(FW)を行った。現在、皇居のうち東側の東御苑は一般開放されており誰でも見学ができる。ただ、日本の子どもたちや先生方には観光としてではなく学習の場としてぜひ一度は訪れてもらいたい場所だと思う。なぜなら皇居は教材の宝庫だからである。

 この日のFWは参加者が全員教員だということもあり、徳川家康が建てた江戸城という史跡をどう教材化するかといったテーマでのFWだった。たとえば城郭としての視点からは、大手門から本丸跡までたどり着く行程にある桝形や櫓、曲がりくねった道や地形を生かした建物の配置など防御施設としての様々な工夫を見ることができる。また、石垣の材質やそこに刻印されている全国の大名家の家紋など天下普請といわれた当時の幕府の大名統制のしくみを知ることもできる。さらに、皇居内の数々の植物や鳥、昆虫の生態などは理科の教材として、江戸城の遺構を生かした現在の東京の都市構造などは地理や公民の教材として、皇居の清掃を担当する勤労奉仕団の活動は道徳等の教材として有効なものになるであろう。

 現在、東御苑には天守閣の土台は残っているが天守閣そのものはない。明暦の大火(1657年)で焼失したのだが、その再建を当時の将軍補佐役だった保科正之が「太平の世に不要」と中止させた話は有名だ。何よりも「江戸城は念には念を入れる完璧主義の家康が長い平和をもたらすために築いた日本一の城」(歴史研究家・森岡知範氏)との言葉からは、皇居が平和の象徴として現存するわが国が誇る史跡であることが窺い知れる。これも皇居のもつ教材としての魅力である。

~図書教材新報vol.230(令和6年6月発行)巻頭言より~

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