一般社団法人全国図書教材協議会会長
細谷 美明
昨年末、中央教育審議会に対し次期学習指導要領の改訂に向けての諮問が示された。今回の議論のポイントの一つが学習指導要領に示される内容の量、いわゆる「カリキュラム・オーバーロード問題」である。よくこの問題は教員の働き方改革に関連させて報じられるが果たしてそうだろうか。
学習指導要領に示される学習内容の量はそのまま教科書の内容に反映する。教科書の記述量=知識が多ければ教える=伝えることを優先し、結果的に教師主導の知識伝達型の授業になってしまう。また、課題解決学習の指導は子供一人一人の活動に対するルーブリックに基づいた教師の適切な形成的評価と指導助言が不可欠となる。そのため、授業前の準備も含め多くの時間と労力を要する。こうした理由から課題解決学習は学校現場で浸透しないのではないかと考えている。したがって、学習内容の削減問題は教員の働き方改革以前に子供たちの「学び」が成立するかどうかといった学校教育にとっての大きな問題と捉えるべきなのである。
「主体的・対話的で深い学び」を学校の教育課程の中核に据えるために次期学習指導要領はどうあるべきか。簡潔に言えば、シンガポールのように「教えを少なく学びを多く」を基本理念とした学習指導要領にすることである。具体的には子供の主体的学びを最優先するために学習内容を精選し、学習目標をより詳細にした上で各教科の「見方・考え方」を単元レベルで具体的に示すべきである。さらにルーブリック(形成的評価)もそれにあわせて示すべきだろう。
「見方・考え方」は「どのような視点で物事を捉えどのような考え方で思考していくのか」といった「深い学び」の鍵となるものである。基本理念と学習目標・評価規準、そして学びの視点と考える方向性が明確に示されれば子供の学びは間違いなく成立することはこれまで優れた指導者たちが証明してくれている。
~図書教材新報vol.238(令和7年2月発行)巻頭言より~