第36期学校教材調査会算数科専門委員
東京学芸大学名誉教授
藤井 斉亮
国際教育到達度評価学会(IEA)が実施したTIMSS2023の結果が昨年12月に発表され、日本でも多くのメディアで取り上げられた。しかし、報道の多くは達成度や国際的な順位に焦点を当てており、カリキュラムカバー率についてはほとんど触れられていない。カリキュラムカバー率とは、TIMSSにおいては、出題された問題がその国のカリキュラムに含まれているかどうかを示す指標である。国際的な調査であるため、国によっては特定の問題がその国のカリキュラムに含まれていない、または調査対象の学年よりも上の学年に位置付けられていることがあるからだ。 今回、理科の達成度が低いとの報道があったが、文部科学省・国立教育政策研究所が発表した「概要」を見ると、カリキュラムに含まれていない問題として、小学4年生の理科では「砂漠に住む動物」が挙げられ、また日本では中学3年生に位置付けられている問題として「地球の公転による季節の変化」が例示されている。これらは日本の小学4年生にとっては学習していない内容である。では、小学4年生理科のカリキュラムカバー率はどれくらいか。国際報告書を基に、履修している問題を全体の問題数で割ってカバー率を出してみると、日本は23%である。このカバー率に対して、小学4年生理科の達成度(平均得点)は555点で58か国中6位である。話は単純でないことは十分に承知しているが、低いカリキュラムカバー率の割には日本の小学4年生は頑張っていると思う。
教育の国際比較は難しい。比べるためには、どこかをそろえなければならないが、その基準設定が難しいからである。IEAはカリキュラムを「意図された」・「実施された」・「達成された」カリキュラムの3層に分けている。各国のカリキュラムは同じではなく、「意図したカリキュラム」をそろえることは難しい。だから、せめてカリキュラムカバー率を視野に入れて、達成度の国際比較・評価をすべきであろう。
~図書教材新報vol.239(令和7年3月発行)巻頭言より~