第38期学校教材調査会国語科専門委員
筑波大学人間系教授
長田 友紀
日本のJICAによって、ミャンマー連邦共和国への小学校教育改革支援(CREATEプロジェクト)が2014~2021年にかけて実施された。私はその国語教育担当専門家として、暗記中心から日本のような学習者中心のミャンマー語科への転換を目指し、学習指導要領・教科書・指導書などの開発を支援してきた。毎年、数十日ほどミャンマーに赴き、師範学校や小中学校の先生方、教育省の関係者らプロジェクトメンバーと一緒に作業を進めた。
当初はミャンマー側に困惑も多く見られた。そこで日本流の国語教育を理解してもらうため、私がプロジェクトメンバーに対して日本の国語の授業を何度も行った。すると「子どもたちにこんな授業を受けさせたい」や「こういう授業を自分もしてみたい」という声があがり、徐々に協力が得られるようになっていった。最終的に作成された教科書は学校現場や子どもたちからも好意的な反応が多く寄せられ、安堵したものである。
しかし残念ながら、コロナや2021年2月のクーデターによって、多くの学校が閉鎖されてしまう。そこでユニセフが新教科書に合わせたドリルの配布を計画し、私はその作成者になった。日本でも教科書にはかかわってきたもののドリルは初めての経験である。日本の様々なドリルを参考にすることで、子どもたちが一人で、あるいは親や寺子屋の支援員などのもとで学べるものをなんとか作ることができた。このドリルは新教科書とともに現在でも多くの地域で使われているはずである。
約十年間のミャンマーでの活動を通して、日本の国語教育の様々な工夫や細やかさを改めて実感することになった。またドリルが頼みの綱となり、学びをつなげている現実を垣間見ることもできた。第38期学校教材調査会専門委員を拝命し身の引き締まる思いであると同時に、ミャンマーの一日も早い平和を心から願っている。
~図書教材新報vol.244(令和7年8月発行)巻頭言より~