vol.245研究授業は教育の根本概念を再認識する場

第38期学校教材調査会算数科専門委員
東京学芸大学自然科学系数学講座数学科教育学分野教授
清野 辰彦

 日本には、百年以上の歴史をもつ授業研究という教育文化がある。授業研究では、子どもの実態の把握、時代に求められる教育の目標の明確化、解決すべき教育上の問題の同定を行う。そして、問題の解決に向けた研究授業を構想し、実施するとともに、授業後の研究協議会では、さまざまな視点から協議し、問題の解決に接近できたのかどうかの省察を行う。教師は、この過程を繰り返し、よりよい教育の実現に向けて努力してきている。
 研究授業は、ある学習内容をどのように指導すればよいのかについて学ぶ場であるが、同時に、日々の授業に対する自己の認識を深める場でもある。
 教育とは何か。普段、授業を行っている際、この問いについて考えることは少ない。篠原助市は、『理論的教育学』(1929年)のなかで、教育について次のように言う。「教育とは、子どもの考えを引き出し、引き上げる作用である。」研究授業では、他者の教育観を鏡として、自己の教育観について見つめ直すことができる。こうした機会を通して、「自分は子どもの考えを引き出すことができているか。引き出した後、その考えを高めることができているか」という問いと正対することができる。それが授業力の向上につながると考えられる。
 では、授業とは何か。ある教師は、「授業とは友達の考えを解釈する場である」と言う。教師が考える授業観が子どもに伝われば、授業そのものが変わると考えられる。「聞きなさい」という指導も必要なくなるであろう。なぜなら、友達の考えを解釈するためには、友達の考えを聞くことが前提となるからである。
 研究授業は、教育に対する根本概念について、再認識することができる場となろう。

~図書教材新報vol.245(令和7年9月発行)巻頭言より~

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