一般社団法人日本図書教材協会監事
筑波大学人間系教授
清水 美憲
OECDは、去る10月7日の午前10時(シンガポール・同9時)に、国際教員指導環境調査(TALIS2024)の結果を、世界同時配信のウェビナーで公表した。当日、大学での授業時間がちょうどこの時間帯に重なったため、学生とともにウェビナーを視聴し、日本の教員を取り巻く指導環境の現状と課題について議論する機会とした。
OECDのTALISは、5年毎に実施される教員の勤務環境に関する大規模国際調査で、今回はコロナ禍のため1年遅れで実施され、55の国や教育システムが参加した。過去のTALIS2013では、教員の勤務時間について、参加国の平均値38時間に対し、日本は54時間で、29時間のイタリアやチリの2倍近い数値であることは判明し衝撃が走った。この知見は、現在の「働き方」改革推進のきっかけにもなった。
今回、シンガポール教育省を主会場に開催されたウェビナーでは、同国教育大臣の祝辞やOECDの武内良樹事務次長の挨拶の後、プロジェクト責任者であるリ・リューチェン氏が調査結果を報告した。同氏は、自身が太平洋の島国・マーシャル諸島のマジュロ環礁にある高校の教員として勤務したことに触れ、当時は常に孤独を感じていたと語った。教員という職業はどの国にもあり、誰もが知る職業であるにも関わらず、教員は孤立して過ごしており、このTALISの結果はそんな教員の声であると強調された。
調査結果で目を引いたのは、世界的に教員が不足しており、日本の教員の勤務時間は前回調査に比べ短縮したものの、参加国中で最長ということであった。しかも、勤務時間の半分以上は、教える人(Teacher)が担う教室での指導以外に割かれているという結果であった。また、日本の30歳未満の若手教員は、ほぼ5人に1人の割合で、5年以内に教職から離れることを考えているというショッキングな結果も示された。令和6年8月27日の中教審答申に基づく教員の職務環境の改善が進む中、国際比較による今回の結果は、教育改革に一石を投じることになるであろう。
~図書教材新報vol.246(令和7年10月発行)巻頭言より~
