vol.253AI時代に外国語を学ぶ意義

第36期学校教材調査会英語科専門委員
信州大学学術研究院教授
酒井 英樹

 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の下にさまざまなワーキンググループが設置され、次期学習指導要領の方向性を検討しているところである。外国語教育に関する外国語ワーキンググループにおいては、AI時代に外国語を学ぶ意義の再定義から議論が始まった。
 外国語教育の意義については古くから教養主義と実用主義が対立してきた。2000年に入り、コミュニケーション能力の育成がより重視され、実用主義に強くシフトしていた。しかし、AI時代を迎え、「翻訳ソフトや生成AIを使えば事足れる。外国語を学ぶ必要はあるのだろうか」という学習者の疑問に対して、単なる実用主義では正対できなくなっている状況であった。
 そのようななかで、外国語ワーキンググループはどのように再定義したのか。会議資料によれば、外国語を知らなくても翻訳ソフトや生成AIによって情報の授受を行えるが、外国語によるリアルなコミュニケーションの方が、感情も伝わり、信頼関係の構築に寄与できるとしている。そして、人間関係が豊かになり、多様な考え方に接することで自分の考えなどが形成・整理され、幸福な人生につながるという。また、外国語や外国語によるコミュニケーションを通して、母語や自国の文化へのメタ認知も促進され、言語や文化、コミュニケーションを深く理解できるとしている。それが国内外の多様な他者との共生・共創を可能とし、よりよい社会への構築につながるという。
 実用主義と教養主義が統合され、新たな意義づけがなされたといえる。「なぜ外国語を学ぶのか」と問われれば、人間関係を豊かにして自分の考えを深め幸福な人生を歩むためであり、言語や文化、コミュニケーションについてよく理解することで多様な他者とともによりよい社会をつくるためであると答えることになる。教科書や教材の内容もこの新たな意義をふまえて作成されることが期待される。

~図書教材新報vol.253(令和8年5月発行)巻頭言より~

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