vol.226 アメリカの教科書・教材事情

一般社団法人日本図書教材協会監事
広島大学名誉教授
二宮 皓

 これまでの常識では、アメリカの学校の教員の教科書依存度は非常に高く(90%)、教科書がカリキュラムであるとまで言われてきた。しかしデジタル教科書・教材の時代に入って事情はどのように変化しているのか。最前線の動向を多面的にみてみたい。

 紙の教科書離れが進行している。デジタル教科書は紙の教科書の「翻訳」であるが、その特質・機能を備えており、ICTを基盤とする教育改革の重要なパートとなっているものである。その便利さやインターネットやプラットフォームへのアクセスの拡大により、加えてコストも低いということから、普及してきた。試算によると、デジタル教科書は紙の教科書のコストより60%も安価であるという。市場規模は、2026年には37億ドルになると予測されている。特にスマホやデバイスの普及がデジタル教科書・教材の普及を後押ししている。双方向型のデジタル教科書・教材はなお一層普及することになる。

 ところが教員の60%は学区(教育行政の基礎単位で、一般行政単位と異なる場合も少なくない)で採択された教科書を教材のひとつとしてみなしてはいるが、教科書以外の教材(オンラインで)を求める教員が増えているという。

 その背景には、「教科書の価値をめぐる曖昧性」や学校で「最新の教科書をそろえるためのコスト」問題があり、学区がその都度購入・更新(貸与制度であるため)を控えるようになったり、また学区によっては、紙の教科書であれ、デジタル教科書であれ、購入費用を用意するにしても、オンラインを活用して自ら作成する教科書を作ることを教員の判断に任せる方針を出したりしていることがあるという。

 もちろん無料でダウンロードできる教材についてはその質の保証や信頼性の問題があることも間違いない。今後の動向を注視したい。

~図書教材新報vol.226(令和6年2月発行)巻頭言より~

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